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東京高等裁判所 昭和56年(ラ)462号 決定

主文

原決定を取消す。

原裁判所の昭和五六年三月五日付公告に基づく別紙物件目録(一)記載の物件に対する競落は許さない。

理由

一本件抗告の趣旨は、原決定の取消を求めるというのであり、その理由は別紙抗告理由書記載のとおりである。

二当裁判所の判断

民事執行法付則二条による廃止前の競売法二九条一項、民事執行法三条による改正前の民事訴訟法(以下旧法という。)六五八条一号が競売期日の公告に競売不動産の表示を記載することを要するとしたのは、それ自体では競売不動産を特定するためであるが、更に他の公告記載の要件と相まつて、競買人に対しては競売不動産の構造、面積等の実情を知らせて競買申出価額算定の標準を与え、競買申出にそこがないようにしてその利益を図るとともに、債権者及び債務者に対する関係においても適正な価額による競買人を得ることによつてその利益を図ることを目的とする一面があることは否定できない。したがつて、競売期日の公告に記載された競売不動産の構造、面積等が実際のそれと著しく相違し、それが利害関係人の保護を目的とする右規定の趣旨を没却する程度に至つたときは、右公告は旧法六五八条一号所定の記載を欠く不適法な公告というべきである。

これを本件についてみるに、原審記録によれば、本件競落許可決定の前提となつた競売期日公告には、競売にかかる土地建物の表示として別紙物件目録記載(一)のとおり表示され、その最低競売価額として右土地建物の平方メートル当りの評価額に公簿上の面積を乗じた金額の合計額である五三五八万二〇〇〇円と記載されているところ、当審において提出された本件競売物件中の建物に関する建築確認通知書及びその確認申請添付図書ならびに同建物の写真によれば本件競売物件中建物は昭和五三年に増築されて別紙物件目録(二)記載の構造面積のものとなつていることが認められ、他に右認定を左右するに足りる資料はない。右によれば、本件競売期日公告中の右建物の表示は、その構造及び面積において現況と著しく異なるというべきであり、その上平方メートル当りの評価額に右建物の公簿上の面積を乗じて算出された最低競売価額も適正なものとはいえないから、本件競売期日公告中右建物の表示及び最低競売価額に関する部分は旧法六五八条一号及び同条六号の趣旨に反し不適法なものというべきである。よつて、旧法六七四条、六七二条四号の規定により右建物に関する競落を許すべきでないところ、右公告によれば、本件競売において右土地建物は一括競売に付せられていることが認められるので、右建物を除外して土地について競落を許すときは、右競売条件に牴触することになるから、結局本件競落はその全部につきこれを許可すべきではない。

よつて、原決定を取消し主文掲記の公告に基づく本件競落はこれを許さないこととし、主文のとおり決定する。

(渡辺忠之 藤原康志 渡辺剛男)

物件日録(一)、(二)〈省略〉

抗告理由書〈省略〉

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